より高い音や低い音を求めて同属楽器が作られている。クラリネット族の各楽器は、いずれも原則的に同じ運指を用いることができる。ハ調のソプラノ・クラリネットを除いた全ての楽器は通常移調楽器として取り扱われ、ト音記号で記譜される(バス・クラリネット以下の低音楽器も基本的にト音記号表記であるが、ヘ音記号で記譜されることもある)。移動度数に関しては下表を参照。
変ロ調のソプラノ・クラリネットよりも高い音域の楽器は、必ずしも成功しているとは言えず、わずかに高いハ調のものも近年になってようやく実用的になり始めたばかりである。変ホ調のソプラニーノ・クラリネット(Es(エス・)クラリネット)は多く使われるが、これは、ソプラノ・クラリネットに比べると幾分金属的な音を出す楽器である。
クラリネットの前身楽器であるシャリュモーが一般化しなかったのは、前述のように第2倍音が使えないために、1オクターブと完全5度の音のために異なる指穴を開けなければならず(次の音で同じ指が使える)、それでは指で穴を押さえきれなかったせいである。キー装置が開発されて、必要なとき以外は常に閉じておいたり、指の届かない穴の開閉を操作できるようになって初めて、1オクターブと完全5度の指穴に対応し、第3倍音との間をスムーズに繋ぐことができるようになった。
指穴の配列並びにキー装置は、現在までさまざまなものが開発されている。
ベーム式
もっとも一般的なのが、ベーム式(フランス式)クラリネットのキー・システムである。1843年にフランスのルイ=オーギュスト・ビュッフェ(L. A. Buffet1885年没)とイアサント・エレオノール・クローゼ(H. E. Klose1808年-1880年)によって、ベーム式フルートのキー・システムを応用して1844年に特許申請し開発された。管弦楽、吹奏楽、ジャズなどで広く用いられている。キー・システムの機構は複雑になってしまうが、比較的単純な運指が実現でき、機動性が高い。初心者にも向いている。
エーラー式 [編集]
ドイツ式のエーラー式クラリネットは、1812年にミュラー(I. Müller)が開発した13キーのクラリネットを元に、ベーム式クラリネットが発明された約60年後(※1)にオスカール・エーラーによって開発された。ベーム式クラリネットの利点も取り入れられている。エーラー式クラリネットにも音色のよさから愛好家は多い。また、特にドイツ人のクラシック演奏者はエーラー式クラリネットを好んで使っている。
(※1)日本ではエーラー式をもとにベーム式が作られたという間違った解釈がまれに見受けられるが、これは大きな間違いである。なぜならエーラー式を開発したオスカール・エーラーが生まれたのは1855年でベーム式が生まれた1839年頃にはまだ生まれていないからである。また、ベーム式はドイツ式の亜種という意見も稀に見受けられるがこれは不適当な意見である。ベーム式クラリネットは独自に開発されたものという解釈が適当であろう。ベーム式によってフランスでは多くの小品やソナタが生まれた。
そのほかのキー・システム [編集]
また、オーストリアではウィーンアカデミー式という楽器が使用されている。
アルバート式のキー・システムは最近はあまり用いられていない。音色はベーム式やエーラー式とは明らかに異なる。もともとはクラシックでも使われていたらしいが、ベーム式やエーラー式のクラリネットに混じって演奏すると目立ってしまう。また、大きな音量が出る。アルバート式のクラリネットは、ニューオーリンズ・ジャズ、ディキシーランド・ジャズといった古いスタイルのジャズを演奏するときによく用いられた。現在でも古いスタイルで演奏するときに用いられることがある。
リフォームド・ベームとは、エーラー式キー・システム用に設計された管に、ベーム式キー・システムを実装したクラリネットである。エーラー式の音色のよさとベーム式の機動性ある運指とを兼ね備えている。
材質 [編集]
管体 [編集]
管は木製が一般的で、グラナディラという黒くて硬い木が最もよく用いられている(よく黒檀の一種だとされているが、グラナディラはもはや黒檀だとはみなされない。黒檀という名称は、現在は限られた数の樹木であるカキノキ科カキノキ属のために用いるように予約されている。こちらを参照)。グラナディラはアフリカのサバンナに生息する樹木で、クラリネットの管体として加工できるようになるまでには、樹齢100年近くも要するといわれる。なお、グラナディラ自体は黒色であるが、楽器として加工する際には、割れを防止するなどの目的で亜麻仁油を染み込ませ、仕上げに黒い塗料が塗られる。したがって、クラリネットの黒い管体の色はグラナディラ本来の色ではない。
廉価モデルではABS樹脂(合成樹脂の一種)製のものもあり、重量が軽く、取り扱いが容易なため、教育現場などで使用される。また、以前はマウスピースと同じエボナイト製のクラリネットも製造された。これらは、天然木につきものの「割れ」を心配する必要がないため、初心者に持たせたり、マーチングや野外応援用などに用いられることがある。他に木製の楽器として、グラナディラ以外にローズウッドやココボロなどが採用されている。
メタル・クラリネットといい、真鍮や銀などの金属管で作られたクラリネットもある。もともとは廉価な普及用に作られていたが、音色が木製の楽器に匹敵、またはそれを上回るという評価もあり愛好家も多い。コントラバスクラリネットなど、大型のクラリネットでは、材木の入手困難性や耐久性の問題などから、金属管のものも少なくない。
最近では、セラミックを用いた楽器も製造された。さらに、近年では良質なグラナディラの入手が困難となってきていることから、グラナディラの粉末とグラスファイバーなどを混合して成形した合成素材のものもある。
管体の材質についてはヤマハのページが参考になる。
キー [編集]
キーは、管の材質に関わらずほとんどが金属で作られており、以前はそのままの仕上げのキーが多かったが、近年では表面に銀メッキを施されているのが一般的である。また、ニッケルメッキのものもある。かつては木材や象牙でキーを製造した時代もあった。キーの材質としては、洋白を用いるのが一般的である。音色に影響を及ぼすことから、その金属配合比率やメッキの質・厚さなど、メーカーによって工夫が凝らされている。
キーの形状は楽器の外観、操作性に大きく関わることから、メーカーごとに意匠の違いがある。
ベーム式クラリネットでは左右の小指の替え指レバーが標準で装備されているため、ほとんどがヘラ状のレバーが用いられるが、エーラー式クラリネットでは小指で操作する替え指がないため、キーにはローラーが取り付けられ、指を滑らせて切り替えられるようになっている。
キーは素手で簡単に変形できるため、楽器の組み立て・分解の際には、キーを曲げてしまわないように注意を払わなければならない。キーバランスの狂いは、タンポが音孔を正常に開閉できなくなって音質・音程に影響するほか、運指のミスにもつながる。
キーのうち、音孔を指で直接塞ぐ部分以外には、タンポが接着されている。タンポに関しては次項で説明する。また、キーの操作に際してキーが管体に触れる部分や、他のキーと触れる部分には、コルクなどが貼られている。このコルクの厚みは、キーのバランスに影響する。
指かけ [編集]
クラリネットには、下管に右手親指で楽器を支えるための指かけが付いている。指かけは主に金属製で、親指に当たる部分にはコルク製の薄いシートが貼り付けられていることがある。また、一部のメーカーでは木製や樹脂製の指かけもある。指かけは位置が固定されているものと、手の大きさに合わせて位置が上下に調節可能なものとがある。
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